気分が落ち込んだ時に試すCBTコラム法:思考の整理とバランス思考への第一歩
気分が落ち込む時に役立つCBTコラム法とは
日々の生活の中で、仕事や人間関係の出来事がきっかけで気分が落ち込んだり、ネガティブな考えに囚われてしまったりすることは誰にでも起こり得ます。このような時、私たちはしばしば「なぜ自分はこう考えてしまうのだろう」「この嫌な気持ちはどこから来るのだろう」と感じるかもしれません。
CBT(認知行動療法)では、私たちの気分や感情は、出来事そのものよりも、その出来事をどう捉えるかという「考え方(認知)」に強く影響されると考えます。ネガティブな考え方のパターンに気づき、それをより現実的でバランスの取れたものに変えていくことが、気分の改善につながるのです。
そのための具体的なツールの1つが「CBTコラム法」、あるいは「思考記録表」と呼ばれるものです。これは、気分が動揺した時の状況、感情、そして頭に浮かんだ考え(自動思考)を書き出し、その考えが現実に基づいているか、別の見方はないかを探るためのワークです。
この記事では、CBTコラム法を使った思考の整理方法を、具体的なステップとともにご紹介します。難しく考える必要はありません。まずは書き出すことから始めて、ご自身の思考パターンに気づく第一歩を踏み出してみましょう。
CBTコラム法で思考を整理する目的
CBTコラム法に取り組む目的は、主に以下の3点です。
- ネガティブ思考のパターンに気づく: どのような状況で、どのような考えが頭に浮かび、それがどのような感情につながるのか、ご自身の傾向を客観的に把握します。
- 自動思考を客観的に捉える: 頭に浮かんだ考えを「事実」として受け止めるのではなく、「あくまで一つの考えである」と距離を置いて眺める練習をします。
- バランスの取れた考え方を見つける: ネガティブな考えにはまらず、状況をより現実的で広い視野から捉え直すための代替案を探求します。
これらの目的を達成することで、感情に振り回されにくくなり、問題解決に向けた冷静な対応が取れるようになることが期待できます。
CBTコラム法の基本的なステップと実践例
CBTコラム法は、いくつかの項目に沿って順番に書き込みを進めます。以下の項目は一般的な例であり、ご自身でやりやすいように調整しても構いません。
紙とペン、またはスマートフォンのメモ機能など、書きやすいものを用意してください。
ステップ1:状況(何が起こったか?)
- 気分が動揺したり、ネガティブな考えが頭に浮かんだりした「具体的な状況」を客観的に記述します。
- いつ、どこで、誰と、何をしている時だったかなど、事実に基づいた描写を心がけます。
- 例:「今日の午前中、取引先に提出した企画書について、上司から修正の指示を受けた時。」
ステップ2:感情(どんな気持ちになったか?)
- その状況で感じた「感情」をリストアップします。単語で構いません。(例:不安、悲しい、怒り、イライラ、恥ずかしい、落ち込み)
- それぞれの感情について、強さを0%から100%で評価します。(例:不安 80%、落ち込み 60%)
- 例:「不安 80%、落ち込み 60%」
ステップ3:自動思考(頭に浮かんだ考えは?)
- その状況と感情を感じた時に、反射的に頭に浮かんだ考えを記述します。
- これが「自動思考」と呼ばれるものです。「こうに違いない」「どうせ〜だ」といった否定的な形をとることが多い傾向があります。
- 最も強く感情を動かした考えはどれか、意識を向けてみましょう。
- 例:「この企画書はダメだ。自分には営業のセンスがないのかもしれない。また失敗してしまった。」
ステップ4:根拠(自動思考が正しいと思える理由は?)
- ステップ3で挙げた自動思考が「正しい」と思える理由や、それを裏付ける事実を記述します。
- 例:「上司からいくつか修正を指示された。過去にも似たような経験があった。」
ステップ5:反証(別の見方・考え方は?)
- ステップ3の自動思考とは異なる、別の見方や可能性を検討します。
- 自動思考が正しくない、あるいは完全に正確ではないと思える理由、反論、別の解釈を考えます。
- 以下の問いかけが役立つことがあります。
- その考えを裏付ける証拠と同様に、それを否定する証拠はないか?
- 別の人が同じ状況を経験したら、どう考えるだろうか?
- 長期的に見たら、この状況の意味は変わるか?
- 最悪の事態、最良の事態、最も現実的な事態は何か?
- 完璧主義に陥っていないか?
- 例:「上司は修正指示だけでなく、評価できる点もいくつか挙げていた。指示された修正は、より良い企画にするための前向きな提案とも考えられる。他の同僚も修正を受けることはよくある。一度の企画書で営業センスがないと決めつけるのは早計かもしれない。」
ステップ6:バランスの取れた考え(より現実的な見方は?)
- ステップ4の「根拠」とステップ5の「反証」の両方を踏まえて、最も現実的でバランスの取れた考え方を記述します。
- これは、ネガティブな自動思考をただポジティブに言い換えるのではなく、事実に基づいた、より客観的な視点です。
- 例:「企画書に修正が入ったのは事実だが、それはより質を高めるための過程である。今回の経験を次に活かすことで、スキルアップにつながるだろう。一度のことで自分の能力全体を判断する必要はない。」
ステップ7:結果(感情の変化は?)
- ステップ6のバランスの取れた考え方を受け入れた結果、ステップ2で評価した感情の強さがどのように変化したか、改めて評価します。
- 完全に感情が消えるわけではなくても、強さが和らいでいることを確認できるかもしれません。
- 例:「不安 30%、落ち込み 20%」
コラム法の実践例(ワークシート形式)
以下の形式を参考に、実際に書き込んでみてください。
| 項目 | 内容 | | :------------------- | :---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 1. 状況 | 今日の午前中、取引先に提出した企画書について、上司から修正の指示を受けた時。 | | 2. 感情(強さ%) | 不安 (80%)、落ち込み (60%) | | 3. 自動思考 | この企画書はダメだ。自分には営業のセンスがないのかもしれない。また失敗してしまった。 | | 4. 根拠 | 上司からいくつか修正を指示された。過去にも似たような経験があった。 | | 5. 反証 | 上司は修正指示だけでなく、評価できる点もいくつか挙げていた。指示された修正は、より良い企画にするための前向きな提案とも考えられる。他の同僚も修正を受けることはよくある。一度の企画書で営業センスがないと決めつけるのは早計かもしれない。 | | 6. バランスの取れた考え | 企画書に修正が入ったのは事実だが、それはより質を高めるための過程である。今回の経験を次に活かすことで、スキルアップにつながるだろう。一度のことで自分の能力全体を判断する必要はない。 | | 7. 結果(感情強さ%) | 不安 (30%)、落ち込み (20%) |
コラム法を実践する上でのポイント
- まずは記録することから: 初めは完璧を目指さず、状況、感情、自動思考の3つだけでも書き出してみることから始めましょう。慣れてきたら他の項目にも挑戦します。
- 頻繁に記録する: 気分が大きく動揺した時だけでなく、小さな動揺やネガティブな考えに気づいた時にも記録すると、ご自身の思考パターンの全体像が見えやすくなります。
- すぐに効果が出なくても焦らない: バランスの取れた考え方をすぐに見つけられないこともあります。続けることで、徐々に思考の幅が広がっていくことを目指します。
- 自分を責めない: ネガティブな自動思考が浮かぶこと自体は自然なことです。そのような思考に気づき、向き合おうとしているご自身を肯定的に捉えてください。
- 必要であれば専門家へ相談: 一人で取り組むのが難しい場合や、気分の落ち込みが続く場合は、CBTを専門とするカウンセラーや医師に相談することも検討してください。
まとめ
CBTコラム法は、気分が落ち込んだりネガティブな考えに囚われたりした時に、ご自身の思考と感情のつながりを理解し、より現実的でバランスの取れた考え方を見つけるための有効なツールです。
最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し実践することで、ネガティブ思考のパターンに気づきやすくなり、それに対する新しい向き合い方を身につけていくことができるでしょう。
このコラム法が、あなたの「思考スイッチ」をより柔軟に切り替え、穏やかな毎日を送るための一助となれば幸いです。