『どうして自分を責めてしまうのか?』ネガティブな内なる声にCBTで向き合う方法
ネガティブ思考に悩む中で、「どうして自分はいつもダメなんだ」「あの時、ああしていれば」と、自分自身を責めてしまうことはないでしょうか。仕事の失敗、人間関係のちょっとしたすれ違いなど、日常の様々な出来事に対して、内側から批判的な声が聞こえてくるように感じる時、それは精神的に大きな負担となります。
なぜ、私たちは自分を責めてしまうのでしょうか。そして、その「内なる声」にどう向き合えば良いのでしょうか。この記事では、ネガティブ思考を改善するための認知行動療法(CBT)の考え方を用いて、自分を責める気持ちを和らげる具体的なステップをご紹介します。
自分を責める「内なる声」とは?
ここで言う「内なる声」とは、頭の中で繰り返し再生される、自分自身に対する批判的な思考やイメージのことです。例えば、「やっぱり自分には無理だ」「もっと頑張るべきだった」「すべて自分のせいだ」といった考え方です。
CBTでは、このような自動的に浮かんでくる考え方を「自動思考」と呼びます。自分を責める自動思考は、まるで厳格な評価者のように、私たちの行動や存在そのものにダメ出しをしてきます。この声が大きくなると、気分が落ち込んだり、やる気を失ったり、不安が強くなったりすることにつながります。
なぜ自分を責めてしまうのか?CBTの視点
自分を責めてしまう背景には、いくつかの認知(物事の捉え方)の偏りがあると考えられます。CBTではこれを「認知の歪み」と呼びます。自分を責める思考に関係しやすい認知の歪みとしては、以下のようなものがあります。
- 全か無か思考(白黒思考): 物事を「完璧か失敗か」のように両極端で捉え、「少しでもできていない部分があるなら全てダメだ」と考えてしまう。
- 心のフィルター(選択的抽出): 良い点やうまくいった部分には目がいかず、悪い点や失敗した部分だけを拡大して捉えてしまう。
- 結論の飛躍(マイナス化思考): 根拠が乏しいのに、最悪の事態や否定的な結論を決めつけてしまう。
- 自己関連づけ: 自分に責任がないことまで、「自分のせいだ」と考えてしまう。
これらの考え方の癖があると、客観的な事実とは異なる形で物事を捉え、自分自身を不当に責めてしまうことにつながります。
CBTで「内なる声」にどう向き合うか:具体的なステップ
自分を責める「内なる声」に気づき、その影響を和らげるためには、CBTの技法が役立ちます。ここでは、その具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:内なる声に「気づく」
まずは、頭の中で自分を責める声が聞こえた時に、「あ、今、自分を責める考えが浮かんだな」と認識することが始まりです。これは、思考を「事実」として受け入れるのではなく、「思考」として客観的に捉える練習です。
自分を責める考えが浮かんだ時に、いつ、どんな状況で、どんな考えが浮かんだのかを簡単にメモしてみることも有効です。例えば、「仕事で少しミスをした時、『なんでこんなこともできないんだ』と思った」のように記録します。これは思考のパターンに気づくための大切なステップです。
ステップ2:声から「距離を置く」
自分を責める声は、まるで自分の真実であるかのように強く感じられることがあります。しかし、それはあくまで「頭の中で浮かんだ考え」であり、「客観的な事実」とは異なります。
思考と自分自身を同一視せず、少し距離を置いて観察する練習をします。例えば、「私はダメだ」という考えが浮かんだら、「『私はダメだ』と考えている自分に気づいた」というように、一歩引いた視点で考え方を表現してみます。これにより、考えに圧倒されにくくなります。
ステップ3:声の「証拠」を検討する
自分を責める考えが、本当に根拠に基づいているのかを冷静に検討します。これは、CBTの「証拠集め」という技法に似ています。
例えば、「自分は何をやってもうまくいかないダメな人間だ」という内なる声が聞こえたとします。これに対して、
- 本当に何もかもうまくいったことはないのか?
- これまでの人生で、少しでもうまくいった経験や努力したことはないか?
- この考えを裏付ける証拠は何か?
- この考えとは異なる証拠は何か?(うまくいったこと、褒められたこと、努力が報われたことなど)
このように、自分を責める考えが「事実」なのか、それとも「そう感じているだけ」なのかを検証します。否定的な証拠ばかりに目が向いていることに気づくかもしれません。
ステップ4:より「バランスの取れた」考え方を見つける
自分を責める考え方が、必ずしも事実に基づいているわけではないことに気づいたら、次にその考え方よりも現実的でバランスの取れた考え方を探します。
例えば、「仕事のミスはすべて自分のせいだ」と自分を責めていた場合、ステップ3で検証した結果、チームの連携にも課題があった、情報共有が不十分だったなどの別の要因があったことに気づいたとします。その場合、「ミスに自分の責任はあったが、他の要因も影響していた。これを次にどう活かすか考えよう」といった、よりバランスの取れた考え方を見つけることができます。
自分自身に問いかけてみてください。 * もし親しい友人が同じ状況だったら、自分なら何と言ってあげるだろうか? * この状況を別の角度から見ると、他にどんな解釈ができるだろうか? * この出来事から学べるとしたら、それは何だろうか?
完璧な考え方を見つける必要はありません。自分を不当に責める考え方よりも、少しでも現実的で、自分自身に対して穏やかになれるような考え方を見つけることが目的です。
実践のポイント
これらのステップは、一度やればすぐにできるようになるものではありません。練習が必要です。
- 完璧を目指さない: 初めはうまくいかないと感じることもあるかもしれません。完璧に思考をコントロールしようとするのではなく、「少しでも気づければOK」という気持ちで取り組みましょう。
- 小さなことから始める: 大きな出来事について自分を責める気持ちに向き合うのが難しければ、日常の些細な出来事から練習を始めましょう。
- 継続する: 考え方の癖は、長年の習慣によって作られています。新しい考え方を身につけるためには、継続的な練習が大切です。
まとめ
自分を責めるネガティブな「内なる声」は、多くの人が経験することです。それはあなたの弱さを示すものではなく、特定の考え方の癖や捉え方から生まれている可能性があります。
認知行動療法(CBT)で学ぶこれらのステップ、すなわち「気づく」「距離を置く」「証拠を検討する」「バランスの取れた考え方を見つける」というプロセスを通じて、自分を責める声に圧倒されることなく、より現実的で穏やかな視点を持つことができるようになります。
自分自身への批判的な声に気づいた時、この記事でご紹介したステップを思い出し、少しずつ実践してみてください。内なる声との関係性が変わり、気持ちが少し楽になることを感じられるかもしれません。