なぜネガティブ思考を続ける?CBTで「失うもの・得るもの」を比較するワーク
なぜネガティブ思考を手放せないのか
日々の生活の中で、仕事のこと、人間関係のことなど、ついネガティブに考えてしまうことはありませんか。多くの人が「ネガティブに考えるのは良くない」と頭では理解していても、なかなかその考え方から抜け出せないと感じているようです。
ネガティブ思考が続くと、気分が落ち込んだり、不安が募ったりと、つらい気持ちになることが多いかと思います。それでも、なぜ私たちはネガティブな考え方を続けてしまうのでしょうか。
実は、ネガティブな考え方にも、無意識のうちに何らかの「メリット」を感じている可能性があるのです。例えば、「最悪の事態を想定しておけば、実際にそうなっても傷つかずに済むかもしれない」とか、「自分に期待しなければ、がっかりすることもない」といった、ある種の自己防衛のような役割を果たしている場合があるのです。
しかし、その「メリット」の裏側には、見過ごせないほどの「デメリット」が存在していることの方が多いのではないでしょうか。ネガティブ思考によって気分が沈み、行動が制限され、新しい可能性を閉ざしてしまうといった影響です。
この記事では、あなたが無意識に感じているネガティブ思考の「メリット」と、それがもたらす本当の「デメリット」を明らかにするためのCBT(認知行動療法)のワークをご紹介します。このワークを通じて、ネガティブ思考を手放し、より現実的でバランスの取れた考え方を選ぶことの価値を理解し、変化への一歩を踏み出すきっかけを見つけることができるでしょう。
CBTにおける「思考の比較」とは
CBTでは、私たちの感情や行動は、出来事そのものよりも、その出来事に対する「考え方(認知)」によって影響を受けると考えます。ネガティブ思考を変えることで、感情や行動にも良い変化をもたらすことができるのです。
今回ご紹介する「失うもの・得るもの比較ワーク」は、特定のネガティブ思考パターンに焦点を当て、その考え方を維持した場合と、より適応的な考え方(現実的、バランスの取れた考え方など)に切り替えた場合とで、それぞれ何を得て、何を失うのかを具体的に比較する手法です。
このワークの目的は、ネガティブ思考を単に「悪いもの」と否定するのではなく、それが現在のあなたにどのような影響を与えているのかを客観的に見つめ、思考を変えることの長期的なメリットに気づくことです。これにより、思考を変えるための内発的な動機付けを得られることが期待できます。
「失うもの・得るもの」比較ワークのステップ
さあ、実際にワークを行ってみましょう。ノートや紙、スマートフォンのメモ機能などを用意してください。
ステップ1:焦点を当てるネガティブ思考を選ぶ
まず、あなたが特に悩まされている、あるいは頻繁に繰り返してしまうネガティブ思考のパターンを一つ選んでみましょう。具体的な状況とセットで考えると分かりやすいかもしれません。
例: * 仕事でミスをした時、「自分はなんてダメな人間なんだ。この先ずっと失敗ばかりするだろう」と考えてしまう。 * 人前で話す機会があると、「きっとつまらないと思われる。恥をかくだけだ」と考えてしまう。 * 友人に連絡しようとする時、「どうせ私なんかに関心ないだろう」と考えてしまう。
ここでは、「自分はなんてダメな人間なんだ。この先ずっと失敗ばかりするだろう」という思考パターンを例に進めてみます。
ステップ2:そのネガティブ思考を続けた場合を考える
次に、ステップ1で選んだネガティブ思考を、この先もずっと持ち続けた場合について考えます。その考え方を続けることで、あなたは何を得て(いるように感じ)、何を失うでしょうか。正直に、思いつく限り書き出してみてください。
ここでは、思考パターン「自分はなんてダメな人間なんだ。この先ずっと失敗ばかりするだろう」を続けた場合を考えます。
ネガティブ思考を続けた場合に「得ている(ように感じる)もの」
- 期待しないので、これ以上がっかりすることはないかもしれない。
- 新しい挑戦を避けられるので、失敗してつらい思いをせずに済む。
- 自分を責めることで、努力しないことへの言い訳にできるかもしれない。
- 現状維持できる(変化への不安を感じずに済む)。
ネガティブ思考を続けた場合に「失うもの」
- 新しいスキルを身につけたり、成長したりする機会。
- 仕事での成功体験や達成感。
- 自信や自己肯定感。
- 前向きな気持ちやモチベーション。
- 周囲からの信頼や評価(ネガティブな態度が影響する可能性がある)。
- 挑戦することで得られる充実感。
- 問題解決のために行動する力。
- 心の平安や幸福感。
ステップ3:現実的・バランスの取れた考え方に変えた場合を考える
次に、ステップ1で選んだネガティブ思考を、より現実的でバランスの取れた考え方(例えば、「今回はミスをしてしまったが、次にどうすれば良いか学べる」「人間は誰でもミスをする。この経験を次に活かそう」など)に変えた場合について考えます。その考え方に変えることで、あなたは何を失い(そうだと感じ)、何を得られるでしょうか。これも思いつく限り書き出してみてください。
ここでは、現実的な考え方「今回はミスをしてしまったが、次にどうすれば良いか学べる。人間は誰でもミスをする。この経験を次に活かそう」に変えた場合を考えます。
現実的な考え方に変えた場合に「失いそうだと感じるもの」
- 完璧ではない自分を受け入れなければならない(プライドを傷つけられるように感じるかもしれない)。
- 自分を責めることで得られていた「頑張っているフリ」や「自己憐憫」といった安心感(これは無意識的なものかもしれません)。
- 変化に伴う一時的な居心地の悪さや不安。
現実的な考え方に変えた場合に「得られるもの」
- ミスから学び、成長する機会。
- 問題解決に向けて建設的に考え、行動する力。
- 自信や自己肯定感の向上。
- 精神的な負担の軽減、心の平安。
- 前向きな気持ちやモチベーション。
- 仕事や人間関係におけるより良い結果。
- 新しい挑戦への意欲。
- 失敗を恐れずに学び続ける姿勢。
ステップ4:結果を比較し、気づきを得る
ステップ2とステップ3で書き出した内容を見比べてみましょう。
- ネガティブ思考を続けることで、一時的に得ている(ように感じる)小さなメリットに対して、長期的にどれほど多くのものを失っているでしょうか。
- 現実的な考え方に変えることによって、失いそうだと感じる不安や居心地の悪さに対して、どれほど多くのものを得られる可能性があるでしょうか。
この比較を通じて、ネガティブ思考にしがみつくことが、結果として自分自身の可能性を狭め、幸福感を遠ざけていることに気づくかもしれません。そして、思考を少し変えるだけで、どれほど多くのポジティブな変化が得られる可能性があるのかを理解できるでしょう。
ワークを続けるためのヒント
このワークは一度行えば全てが変わるという魔法ではありません。継続して行うことで、ネガティブ思考のパターンに気づきやすくなり、新しい考え方を選ぶ練習になります。
- 正直に書く: 誰に見せるものでもありません。自分の内面に正直に向き合ってみましょう。
- 完璧を求めない: 最初はうまく書けないと感じるかもしれません。考えつくままに書き出してみることが大切です。
- 特定の状況で試す: 日常でよくネガティブになる特定の状況(例: 上司と話す時、企画書を提出する時など)に焦点を当ててワークを行うと、より具体的な気づきが得られます。
- 定期的に行う: 一度だけでなく、しばらく時間を置いてから同じテーマや別のテーマで再びワークを行ってみましょう。
まとめ
ネガティブ思考は、時に私たちを守ろうとする無意識的な働きから生まれることもあります。しかし、それが長期的に私たちの成長や幸福感を妨げているのだとしたら、その考え方を見直す価値は十分にあると言えます。
今回ご紹介した「失うもの・得るもの比較ワーク」は、あなたがネガティブ思考を手放せないでいる理由に光を当て、思考を変えることの具体的なメリットを明らかにするための一歩です。このワークを通じて得られた気づきが、あなたの「思考スイッチ」を切り替えるための力となることを願っています。
思考のパターンに気づき、それをより現実的でバランスの取れたものへと変えていくことは、練習によって身につけられるスキルです。焦らず、あなたのペースで、小さな一歩から始めてみてください。
もし、一人で取り組むのが難しいと感じる場合や、より深くCBTを学びたい場合は、専門家(医師や心理士など)に相談することも検討してみてください。