気分が重くなる場所や状況を特定する:CBTで学ぶ「思考のパターン」発見ワーク
日々の生活の中で、「なぜかこの場所に行くと気分が重くなる」「特定の人と会うとなんだか疲れる」といった経験はないでしょうか。特定の場所や状況が、無意識のうちに私たちの気分に影響を与えていることがあります。
このような時、ネガティブな気分を引き起こしているのは、その場所や状況そのものよりも、そこで私たちが「何を考えたか」という思考が大きく関わっている場合があります。認知行動療法(CBT)では、思考と感情、そして行動は互いに影響し合っていると考えます。特定の場所や状況は、ネガティブな「自動思考」(頭にふと浮かぶ考え)の引き金(トリガー)になっている可能性があるのです。
この自動思考のパターンに気づくことは、ネガティブな気分に対処するための重要な第一歩となります。ここでは、特定の場所や状況とネガティブ思考のつながりを発見するためのCBTワークをご紹介します。
なぜ特定の場所や状況が気分を左右するのか
私たちの脳は、過去の経験と現在の状況を結びつけて、自動的に思考や感情を生み出すことがあります。例えば、過去に苦手な会議があった会議室に入るたびに、その時のネガティブな思考や感情が蘇る、といった具合です。
これは、特定の「場所」や「状況」が、過去にネガティブな思考や感情が強く結びついた出来事を思い起こさせる「トリガー」として機能しているためです。このトリガーに気づき、どのような思考パターンが働いているのかを理解することが、状況を変えるための鍵となります。
ネガティブ思考パターン発見ワーク
このワークでは、特定の場所や状況でネガティブな気分になった際に、その時の状況、思考、感情、行動を記録することで、自分のパターンを客観的に把握することを目指します。ワークシートのような形式で記録すると、整理しやすくなります。
ステップ1:ネガティブな気分になった「場所や状況」を記録する
まずは、ネガティブな気分や落ち込みを感じた「日時」と、その時の「具体的な場所や状況」を記録します。
- 例:
- 日時:今日の午後3時
- 場所・状況:職場の自分のデスクに座っている時
できるだけ具体的に描写することが大切です。「仕事中」ではなく「職場の自分のデスクに座っている時」、「友人との時間」ではなく「〇〇さんとカフェで話している時」のように記録します。
ステップ2:その時に「頭に浮かんだ考え(思考)」を記録する
ステップ1で記録した場所や状況にいた時、頭の中にどんな考えが浮かんでいましたか? 無意識のうちに浮かんだ「自動思考」をそのまま書き出してみましょう。良い考え、悪い考えの判断はせず、ただ思いついたことを記録します。
- 例(ステップ1の続き):
- 頭に浮かんだ考え:
- 「この仕事、締め切りに間に合わないかもしれない」
- 「また失敗するんじゃないか」
- 「自分は能力がない」
- 頭に浮かんだ考え:
ステップ3:その時に「感じた感情」と「取った行動」も記録する
その思考によって、どんな感情が生まれ、どんな行動をとりましたか? 思考、感情、行動は互いに関連しています。感情は単語で(例:不安、悲しい、イライラなど)、行動は具体的に記録します。
- 例(ステップ1, 2の続き):
- 感じた感情:不安(80点)、ゆううつ(60点)
- 取った行動:ため息をついた、SNSを見て気分転換しようとしたが集中できなかった
ステップ4:記録から「パターン」を見つける
いくつかのケース(最低でも3〜5ケース程度)を記録したら、それらの記録を振り返ってみましょう。
- 特定の「場所」や「状況」で、いつも同じような「思考」が浮かんでいませんか?
- 特定の「思考」が浮かぶと、いつも同じような「感情」や「行動」につながっていませんか?
例えば、「会議前になると、いつも『自分はうまく話せない』と考えて不安になり、発言を控えてしまう」というパターンや、「自宅で一人でいると、『自分は誰からも必要とされていない』と考えてしまい、気分が落ち込み、何もする気が起きなくなる」といったパターンが見つかるかもしれません。
このパターンを発見することが、ネガティブな気分への対処を考える上で非常に役立ちます。
パターンを発見したら
特定の場所や状況がネガティブ思考のトリガーになっているパターンを発見できたら、それは大きな一歩です。この気づきがあるだけで、次に同じ状況になったときに「あ、いつものパターンだ」と冷静に一歩引いて考えられるようになります。
発見したパターンに対して、CBTには様々な対処法があります。例えば、浮かんだネガティブな思考が現実に基づいているか「証拠集め」をしてみる、よりバランスの取れた「代わりの考え方」を探す、気分転換になる「行動を計画する」といった方法です。
まずは、このワークを通してご自身のネガティブ思考の「トリガーとなる場所や状況」と「その時の思考パターン」に気づくことから始めてみてください。この発見が、思考スイッチをポジティブな方向へ切り替えるための確かな土台となります。
このワークを続けることで、ご自身の思考パターンをより深く理解し、ネガティブな気分に振り回されにくい自分を育てていくことができるでしょう。