思考スイッチチェンジ

なぜ落ち込むと動けなくなる?CBTで知る気分と行動の悪循環と対策

Tags: CBT, 行動活性化, ネガティブ思考, 落ち込み, 気分転換, スモールステップ

気分が落ち込んだ時に何もしたくなくなるのはなぜか

日々の生活の中で、仕事でうまくいかなかったり、人間関係で悩んだりすると、気分が落ち込むことは誰にでもあります。気分が落ち込むと、「何もする気が起きない」「億劫で動けない」と感じることがよくあります。

そして、動けないでいると、さらに気分が落ち込んでしまう。このような経験はないでしょうか。

これは、気分と行動が相互に影響し合っているために起こる悪循環の一つです。今回は、なぜ気分が落ち込むと動けなくなり、それがさらに気分を悪化させるのか、そのメカニズムを理解し、この悪循環を断ち切るためのCBT(認知行動療法)に基づいた考え方と、明日からでも試せる小さな対策についてご紹介します。

気分と行動の悪循環:ネガティブなループ

ネガティブ思考に捉われたり、嫌な出来事があったりして気分が落ち込むと、私たちは自然と活動レベルが下がります。趣味を楽しむ気がなくなったり、友人との約束をキャンセルしたり、家でじっとしている時間が増えたりします。

活動が減ると、何が起こるでしょうか。

達成感や喜び、楽しさを感じる機会が失われます。本来であれば、行動することで得られるはずの小さな成功体験や、人とのつながり、気分転換の機会がなくなってしまうのです。

これらのポジティブな要素が減ると、さらに気分が落ち込みやすくなります。そして、気分がさらに落ち込むと、ますます動きたくなくなる…という、ネガティブな悪循環が生まれてしまいます。

この悪循環を断ち切るためには、落ち込んだ気分を変えようと努力するだけでなく、行動に焦点を当てることが有効です。これが、CBTで重要視される「行動活性化(Behavioral Activation)」という考え方です。

行動活性化の考え方:気分は後からついてくる

行動活性化は、気分が落ち込んでいるときこそ、意識的に行動を起こすことに焦点を当てるアプローチです。「やる気が出たらやろう」と待つのではなく、「まずは行動してみよう。行動することで、気分が変わるかもしれない」と考えます。

気分が落ち込んでいるとき、私たちはしばしば「良い気分になったら、あの活動を再開しよう」と考えがちです。しかし、落ち込んだ気分そのものを直接変えることは難しく、待っていてもなかなか行動を再開するエネルギーが湧いてこないことがあります。

行動活性化では、この「気分が変わるのを待つ」という考え方から離れ、「行動を増やすことで、気分が自然と改善するきっかけを作る」という逆転の発想をします。

例えば、散歩に出かけることで気分が少し晴れるかもしれません。友人と話すことで、気持ちが楽になるかもしれません。何か小さなタスクを完了させることで、達成感を得られるかもしれません。これらの経験が、落ち込んだ気分を少しずつ改善していく可能性を持っています。

重要なのは、行動すること自体に価値を置くことです。必ずしも気分が劇的に良くなる必要はありませんし、完璧に行う必要もありません。

悪循環を断ち切るための超スモールステップ

気分が落ち込んでいる時に「さあ、何か行動しよう!」と思っても、ハードルが高く感じられるかもしれません。そこで役立つのが、「超スモールステップ」という考え方です。

大きな目標を立てるのではなく、今の自分に「これならできるかもしれない」と思える、極めて小さな行動から始めます。

具体的なステップをご紹介します。

  1. 今の気分と、できそうなことを書き出す

    • まず、今の自分の気分を簡単に書き出してみましょう(例:「少し憂鬱」「何もしたくない」)。
    • 次に、気分に関わらず、「やったら少しは気分が良くなるかもしれない」「やらなければならないことだけど、小さなことならできそう」といった活動をいくつかリストアップしてみます(例:部屋を片付ける、友達にLINEを送る、近所を少し歩く、好きな音楽を聴く、コーヒーを淹れる)。
  2. 一番ハードルの低い行動を選ぶ

    • リストアップした活動の中から、今の自分が「これなら、なんとかできそうだ」と一番ハードルが低く感じられるものを選びます。
  3. さらに細分化する(超スモール化)

    • 選んだ行動を、さらに細かく、小さく分解します。目標を「達成」するためではなく、「最初の小さな一歩」を踏み出すためです。
    • 例:
      • 「部屋を片付ける」→「まずゴミ箱を一つ捨てる」→「ゴミ箱の近くに行く」
      • 「近所を少し歩く」→「玄関まで行く」→「玄関のドアを開けて外の空気を吸う」
      • 「友達にLINEを送る」→「スマートフォンのロックを解除する」→「LINEアプリを開く」
      • 「コーヒーを淹れる」→「キッチンに行く」→「マグカップを一つ出す」
  4. 超スモールステップを実行する

    • 細分化した、最も小さなステップを、実際にやってみます。たったこれだけです。
  5. 実行後の気分や気づきを記録する(任意)

    • もし可能であれば、その超スモールステップを実行した後、自分の気分に何か変化があったか、何か気づきがあったかを簡単にメモしてみましょう。気分が変わらなくても構いません。「〇〇(超スモールステップ)を実行できた」ということ自体が、小さな成功体験です。

小さな行動が変化のきっかけに

気分が落ち込んでいる時には、つい「何もしたくない」という気持ちに流されがちですが、それは気分と行動の悪循環に繋がることがあります。

CBTの行動活性化の考え方を取り入れ、まずは「これならできる」と思える超スモールステップから行動を始めてみてください。たとえ気分がすぐに変わらなくても、行動したこと自体が、悪循環を断ち切る小さな一歩となります。

小さな行動を積み重ねることで、気分が少しずつ上向いたり、新たな発見があったり、達成感を得られたりする機会が増えていきます。

焦らず、今の自分にできることから、少しずつ試してみてください。それが、思考のスイッチを切り替えるきっかけになるかもしれません。