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『もしも』とネガティブな未来を考えすぎるとき:CBTで不安を小さくする現実的な考え方

Tags: ネガティブ思考, CBT, 不安, 未来への不安, 現実的な考え方

ネガティブな未来を考えすぎて不安になるあなたへ

日々の生活の中で、「もしも、こうなったらどうしよう」「きっと失敗するのではないか」と、先のことをネガティブに考えてしまい、不安な気持ちに囚われることはありませんか。特に、新しい挑戦をするときや、重要な決断を迫られているときなど、未来の不確実性に対してネガティブな予測ばかりが頭を巡り、気分が落ち込んだり、行動が億劫になったりすることは少なくありません。

このようなネガティブな未来予測は、心身に負担をかけ、本来持っている力を発揮することを妨げてしまうことがあります。しかし、CBT(認知行動療法)の考え方を用いることで、こうした「考えすぎる癖」に現実的に向き合い、不安を和らげることが可能です。

この記事では、なぜ私たちは未来をネガティブに考えがちなのかを解説し、CBTに基づいた具体的な考え方のステップと実践法をご紹介します。

なぜ私たちは未来をネガティブに考えすぎてしまうのか

未来をネガティブに予測してしまう背景には、いくつかの要因があります。

  1. 人間の防衛本能: 危険を予測し、回避しようとするのは、生物として備わった自然な機能の一つです。過去の失敗経験などから、「次はこうなるかもしれない」と悪い可能性を考えることは、ある意味で自分を守るための働きでもあります。
  2. 過去の経験: 過去に困難な状況を経験したり、失敗をしたりしたことがある場合、「また同じことになるのではないか」という恐れから、未来に対してもネガティブな予測を立てやすくなります。
  3. 認知の歪み: CBTでいう「認知の歪み」の一つに、「破局視(カタストロフィック思考)」があります。これは、物事がうまくいかない場合に、起こりうる最悪の事態ばかりを考えてしまい、その可能性を過大評価する傾向のことです。例えば、「プレゼンがうまくいかなかったら、会社での自分の価値はゼロになる」のように、現実離れした極端な結論を考えてしまう場合があります。

こうした要因が複雑に絡み合い、私たちは未来の不確実性に対して、無意識のうちにネガティブな予測を立て、「考えすぎる」状態に陥ってしまうことがあります。

CBTで学ぶ、未来のネガティブな予測への向き合い方

CBTでは、未来のネガティブな予測は「思考」、つまり頭の中で浮かんだ「考え」として捉えます。思考は現実そのものではなく、単なる「考え」であると理解することが第一歩です。未来の予測はあくまで現時点での「可能性」の一つであり、それが決定された未来ではないことを認識します。

ネガティブな未来予測に対してCBTでアプローチする際の基本的な考え方は、以下の通りです。

これらの考え方を踏まえ、具体的な実践ステップに進みましょう。

ネガティブな未来予測を現実的に捉え直すワーク

ここでは、紙とペン(またはPCやスマートフォンのメモ機能)を使って行う簡単なワークを紹介します。これは、頭の中でぐるぐる考えていることを具体的に書き出すことで、客観的に捉え直し、現実的な視点を取り戻すためのステップです。

ステップ1:不安な「もしも」を具体的に書き出す

まず、あなたが未来についてネガティブに考えていること、漠然とした不安や具体的な予測を、思いつくままに書き出してみてください。

頭の中で考えているだけでは混乱しがちですが、書き出すことで「自分が何を不安に思っているのか」が明確になります。

ステップ2:書き出した予測について現実的に問いかける

書き出したネガティブな予測一つ一つに対して、以下の問いを立てて、現実的に考えてみましょう。

| 問い | 書き出したネガティブな予測:〇〇 | あなたの回答 | | :------------------------------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------------------------- | :-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- | | 1. この予測が【実際に起きる可能性】は、現実的にどれくらいだろうか? (例:0%~100%で考える、低い・普通・高いなど) | 例:来週のプレゼンで失敗して、上司に怒られるかもしれない。 | 例:入念に準備はしているし、過去に多少の失敗はあっても毎回ひどく怒られるわけではない。可能性は「低い」かもしれない。 | | 2. もし、この予測が【現実になった場合、私はどう対処できる】だろうか? (具体的な行動や、協力を得られる人などを考える) | 例:来週のプレゼンで失敗して、上司に怒られるかもしれない。 | 例:失敗した原因を分析して、次に活かそう。上司に相談してアドバイスをもらうこともできる。同僚にフォローしてもらうことも可能かもしれない。 | | 3. この予測が【現実にならなかった場合、他にどんな可能性がある】だろうか? (ネガティブではない別の結果を考える) | 例:来週のプレゼンで失敗して、上司に怒られるかもしれない。 | 例:大きな問題なく終わるかもしれない。一部うまくいかなくても、全体的には成功するかもしれない。上司から建設的なフィードバックをもらえるかもしれない。 | | 4. この予測以外に、【現実的に考えて最も可能性が高い】結果は何だろうか? | 例:来週のプレゼンで失敗して、上司に怒られるかもしれない。 | 例:多少の改善点は指摘されるかもしれないが、概ね期待通りの結果になる可能性が高い。 |

このように、感情的になっている予測に対して、客観的・現実的な問いを立てることで、不安を煽る「考えすぎ」から距離を置くことができます。特に、「もしそうなってもどう対処できるか」を具体的に考えることは、自分のレジリエンス(困難から立ち直る力)に気づくきっかけになります。

ステップ3:最悪の事態を乗り越えるイメージを持つ(必要な場合)

ステップ2の「もし現実になったらどう対処できるか」をさらに発展させ、「もし本当に最悪の事態になったとしても、自分はどうにか乗り越えられるだろうか?」と考えてみることも有効です。これは、最悪の事態を恐れるあまり行動できない状況から、「たとえそうなっても、ゼロになるわけではない」「きっと何かできることがある」という現実的な対処能力への気づきを促すためのステップです。無理に考える必要はありませんが、もしよろしければ試してみてください。

日常でできること:ネガティブな未来予測に気づき、手放す練習

ワーク以外にも、日常で意識することでネガティブな未来予測にとらわれにくくなる方法があります。

まとめ

未来をネガティブに考えすぎてしまう癖は、多くの人が抱える悩みです。しかし、これは変えられないものではありません。CBTの考え方を取り入れ、「思考は現実ではない」と理解し、不安な予測に対して現実的な問いを立てるワークを実践することで、不安を和らげ、よりバランスの取れた考え方を育むことができます。

焦らず、一つずつ、ご自身のペースで試してみてください。ネガティブな未来予測にとらわれず、今に集中し、行動を選択していく力がきっと育まれるはずです。もし、ご自身での実践が難しいと感じる場合は、専門家への相談も有効な選択肢であることを付け加えておきます。