ネガティブ思考に効くCBT:『感謝できること』に焦点を当てる具体的なステップ
日々のネガティブ思考に、感謝の視点を取り入れる
日々の出来事に対して、ついネガティブに考えてしまい、気分が落ち込んでしまうことはありませんでしょうか。仕事での小さなミスを引きずったり、人間関係での些細なやり取りを悪く解釈したりして、漠然とした不安を感じることもあるかもしれません。
そのようなネガティブな考え方に捉われがちな時、私たちは「ないもの」や「うまくいかないこと」に焦点を当ててしまいがちです。しかし、視点を少し変えることで、現実の中にあるポジティブな側面や、感謝できることに気づくことができます。これは、認知行動療法(CBT)の一つのアプローチとも言えます。
この記事では、CBTの考え方に基づき、日常の中で「感謝できること」に意図的に焦点を当てることで、ネガティブ思考を和らげ、気分を改善していくための具体的なステップをご紹介します。特別なことではなく、すぐにでも始められる簡単な練習です。
なぜ『感謝できること』に焦点を当てることがネガティブ思考に有効なのか
CBTでは、私たちの「考え方(認知)」が、気分や行動に大きく影響すると考えます。ネガティブ思考に囚われている時は、出来事の悪い側面ばかりに目が行き、自動的に否定的な解釈をしてしまいがちです。これは、特定の情報だけに注意が向く「認知の歪み」の一つとも関連があります。
意図的に感謝できることやポジティブな側面に焦点を当てる練習は、この「認知の歪み」に働きかけ、注意の焦点をずらすことを目的としています。具体的には、
- 注意の方向を変える: 「問題」や「不足」から、「既に持っているもの」や「恵み」へと注意を向け直します。
- 感情の変化を促す: 感謝やポジティブな感情は、ネガティブな感情と両立しにくいため、気分を改善する効果が期待できます。
- 現実のバランスを取り戻す: ネガティブな側面にばかり偏っていた認知を、現実のよりバランスの取れた側面に合わせ直す手助けとなります。
この練習は、ネガティブな考え方を無理に「ポジティブ」に変えようとするのではなく、現実の中にある見過ごしていた側面を認識し、思考のバランスを取るためのものです。
CBTに基づいた『感謝できること』に焦点を当てる実践ステップ
ここでは、日常で簡単に取り組める具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:意識的に『探す』準備をする
まず、今日一日、あるいは過去数日の間に「感謝できること」「少しでも良かったこと」「当たり前だけど実はありがたいこと」を探してみよう、と心の中で決めます。大げさなことである必要はありません。
- 朝、目が覚めたこと
- 美味しいと感じるものを食べたこと
- 電車が遅れなかったこと
- 職場で誰かが手伝ってくれたこと
- 天気が良かったこと
- 好きな音楽を聴けたこと
このように、本当に些細なことで構いません。「感謝できることなんてない」と感じる時でも、意識的に「何か見つけられるかな?」と問いかけることから始めます。
ステップ2:日常の中で『感謝の対象』を見つける
日常生活を送りながら、あるいは一日の終わりに振り返りながら、意識的に感謝できる点を探します。
- 五感を活用する: 見たもの、聞いたもの、触れたもの、味わったもの、嗅いだものの中で、少しでも心地よかったり、ありがたいと感じたりしたことはないでしょうか。
- 人との関わり: 誰かの親切な言葉、手伝い、笑顔など、小さくても良い影響を与えてくれたことはありませんか。
- 当たり前のこと: 安全な家に帰れること、食事があること、着る服があることなど、普段意識しない「当たり前」の中に感謝を見出すことも重要です。
- 困難の中にも: 例え困難な状況にあったとしても、そこから学べたこと、助けてくれた人の存在など、ポジティブな側面を見つけられないか考えてみます(難しい場合は無理にする必要はありません)。
ポイントは、「見つけよう」と能動的に意識することです。最初は難しいかもしれませんが、練習するうちに少しずつ見つけやすくなっていきます。
ステップ3:見つけた感謝を『記録する』
見つけた感謝できることを、簡単な形式で記録します。これにより、漠然とした思考を可視化し、後で見返すことができます。
記録する方法は問いません。ノートに書き出す、スマートフォンのメモアプリを使う、専用のアプリを使うなど、ご自身にとって続けやすい方法を選んでください。
以下のような簡単なフォーマットを参考にしてみてください。
**【感謝の記録】**
* **日付:** YYYY年MM月DD日
* **感謝できること:**
* (例1)朝、淹れたてのコーヒーを美味しく飲めたこと。
* (例2)通勤中に、好きなポッドキャストを聴いて気分転換できたこと。
* (例3)職場で、〇〇さんが資料の場所をすぐに教えてくれたこと。
* (例4)夕食に温かい味噌汁を飲んで、ホッとしたこと。
* **その時の気持ち(任意):** (例)少しホッとした、ありがたいと思った
毎日続けるのが理想ですが、最初は週に数回からでも構いません。大切なのは、定期的に記録する習慣をつけることです。
ステップ4:記録を『見返す』習慣をつける
ある程度記録が溜まってきたら、時々それを見返してみましょう。ネガティブな気分になっている時にこそ、この記録が役に立ちます。
見返すことで、ネガティブな考えに捉われている時でも、現実には良いことや感謝できることも確かに存在することを再認識できます。「悪いことばかりではないのだな」と気づくことが、思考のバランスを取り戻す手助けとなります。
実践を続ける上でのポイント
- 完璧を目指さない: 毎日たくさんの感謝を見つける必要はありません。一つでも、本当に小さなことでも十分です。
- 「べき」思考を手放す: 「感謝しなければならない」と義務的に考えるのではなく、「何か見つけられたらいいな」という軽い気持ちで取り組みましょう。
- 効果はすぐに感じられないかもしれない: 最初は劇的な変化を感じないかもしれません。これは思考の習慣を変える練習なので、継続することが重要です。
- ネガティブ思考が悪いわけではない: この練習は、ネガティブな考えを否定するものではありません。ネガティブな側面にも気づきつつ、それ以外の側面にも目を向けられるようになることを目指します。
まとめ
ネガティブ思考に捉われやすい時、私たちは無意識のうちに物事の悪い側面にばかり焦点を当ててしまいがちです。CBTのアプローチでは、このような注意の偏りを調整し、現実のよりバランスの取れた側面にも目を向ける練習を行います。
今回ご紹介した「感謝できることに焦点を当てる」練習は、そのための具体的なステップです。日常の小さな良かったことや当たり前のことに意識的に目を向け、記録することで、思考の習慣を少しずつ変え、気分を改善していくことが期待できます。
すぐに大きな変化がなくても、続けることで必ず何かしらの気づきがあります。まずは今日から、身の回りの小さな「感謝」を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。