漠然とした将来の不安を減らすCBT式計画術
日々の生活の中で、漠然とした将来への不安を感じることは少なくありません。「これからどうなるのだろう」「うまくいくだろうか」といった考えが頭をよぎり、気分が落ち込んだり、行動が億劫になったりすることもあるかもしれません。
このような漠然とした不安は、具体的な形がないため、どのように対処すれば良いのか分からず、一人で抱え込んでしまいがちです。認知行動療法(CBT)には、このような漠然とした不安に具体的な形を与え、現実的な視点から対処していくための考え方や実践法があります。
この記事では、漠然とした将来の不安にCBTの考え方で向き合い、具体的な計画を立てることで不安を軽減するための実践術をご紹介します。
なぜ漠然とした不安には「計画」が有効なのか
漠然とした不安は、その「漠然としている」という性質ゆえに、私たちの心の中で際限なく大きくなりがちです。具体的な対象がないため、思考が様々な可能性(多くはネガティブな可能性)を巡り、不安が不安を呼ぶ悪循環に陥ることがあります。
CBTでは、このような思考パターンに気づき、より現実的で建設的な考え方や行動を取り入れることを目指します。漠然とした不安に対して「計画を立てる」という行動は、以下の点で有効です。
- 不安の具体化: 漠然とした不安を、具体的な「懸念事項」として特定する助けになります。何に不安を感じているのかが明確になることで、対処法を考えやすくなります。
- コントロール感の獲得: 将来の不確かさに対して、自分で考え、準備できることがあるという感覚(コントロール感)を持つことができます。これは無力感を減らし、不安を和らげるのに役立ちます。
- 問題解決への移行: 不安を単なる感情としてではなく、「解決すべき問題」として捉え直し、具体的な解決策を考える思考プロセスに移行することができます。
計画を立てることは、未来を完全に予測したり、全ての問題を解決したりすることを保証するものではありません。しかし、不確実性の中で、考えられる最善の準備をすることで、不安を管理し、冷静さを保つための有効な手段となり得ます。
漠然とした将来の不安を減らすCBT式計画術ステップ
ここでは、CBTの考え方を取り入れた、漠然とした将来の不安に対する具体的な計画の立て方をステップでご紹介します。特別な知識は必要ありません。紙とペン、またはスマートフォンのメモ機能などを用意して、ぜひ試してみてください。
ステップ1:漠然とした不安を具体的に書き出す
まず、漠然と感じている将来への不安を、頭に浮かぶままに全て書き出してみましょう。
- どんなことに対して漠然とした不安を感じていますか?
- それはどのような状況で特に強く感じますか?
- その不安は、具体的にどのような「懸念」に基づいていますか?
例えば、「将来、お金に困るかもしれない」「仕事がうまくいかなくなるかもしれない」「病気になるかもしれない」「人間関係が崩れるかもしれない」など、どんな小さなことでも構いません。判断せずに、思いつくままに書き出してみてください。
漠然としていた不安が、言葉として書き出されることで、少しずつ形を持ち始めます。
ステップ2:最も気になる懸念事項を特定する
書き出した不安の中から、今の自分にとって最も気になる、あるいは最も対処したいと感じる懸念事項を一つか二つ選びましょう。全てを一度に解決しようとすると圧倒されてしまうため、焦点を絞ることが大切です。
選んだ懸念事項を改めて具体的に記述してみてください。例えば、「将来、お金に困るかもしれない」という漠然とした不安を選んだ場合、「具体的にいつ頃、どのような状況でお金に困ることを心配しているのか?」「それはどのくらいの期間続くことを恐れているのか?」など、可能な限り具体的に言葉にしてみます。
ステップ3:懸念事項を「解決すべき問題」として定義する
選んだ懸念事項を、ネガティブな予測としてではなく、「解決すべき問題」として捉え直します。
例えば、「将来、お金に困るかもしれない」という懸念は、「将来、安定した経済状況を維持するためにはどうすれば良いか?」という「問題」として定義できます。「仕事がうまくいかなくなるかもしれない」は、「仕事で継続的に成果を出し、キャリアを維持・向上させるためにはどうすれば良いか?」といった問題になります。
懸念を問題として再定義することで、感情的な不安から、理性的に対処を考えるモードに切り替える助けとなります。
ステップ4:具体的な目標を設定する
定義した問題に対して、どのような状態を目指したいのか、具体的な目標を設定します。目標は、達成可能で、測定可能なものであることが望ましいです。
- 問題:「将来、安定した経済状況を維持するためにはどうすれば良いか?」
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目標:「〇年後までに、一定の貯蓄目標を達成し、複数の収入源を確保する」
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問題:「仕事で継続的に成果を出し、キャリアを維持・向上させるためにはどうすれば良いか?」
- 目標:「今後1年間で、特定のスキルを習得し、担当するプロジェクトで〇〇という成果を出す」
目標が抽象的すぎると、何をすれば良いか分かりにくいため、できるだけ具体的に設定します。
ステップ5:目標達成のための具体的な計画を立てる
設定した目標を達成するために、具体的にどのような行動をとるかを計画します。目標が大きな場合は、小さなステップに分解し、最初の一歩を明確にすることが重要です(スモールステップ)。
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目標:「〇年後までに、一定の貯蓄目標を達成し、複数の収入源を確保する」
- 計画1:毎月〇円を貯蓄用口座に移す習慣を作る。
- 計画2:節約できる項目(例:外食費、通信費)を見直し、具体的な削減目標を設定する。
- 計画3:副業や投資など、新たな収入源について情報収集を開始する(最初の1週間で〇時間)。
- 計画4:情報収集に基づき、まずは〇〇(例:特定のスキル学習、少額投資)から始めてみる。
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目標:「今後1年間で、特定のスキルを習得し、担当するプロジェクトで〇〇という成果を出す」
- 計画1:習得すべきスキルに関連するオンライン講座や書籍を特定する。
- 計画2:毎日または週に〇時間、スキル学習の時間を確保する。
- 計画3:プロジェクトの目標達成に向けて、具体的なタスクリストを作成し、期日を設定する。
- 計画4:定期的に進捗を確認し、必要に応じて計画を修正する。
これらの計画は、完璧である必要はありません。まずは「最初の一歩」を具体的に決めることが大切です。
ステップ6:計画を実行し、振り返りを行う
立てた計画に従って、行動を開始します。そして、定期的に計画の進捗や、不安にどのような変化があったかを振り返りましょう。
- 計画は順調に進んでいますか?
- 途中で予期せぬ問題に直面しましたか?
- 計画を実行している中で、不安はどのように変化しましたか?
- 必要であれば、計画を修正したり、新たな解決策を検討したりします。
計画通りに進まなくても、自分を責める必要はありません。計画はあくまで行動を促し、不安に対処するためのツールです。状況に合わせて柔軟に見直し、調整していくことが自然なプロセスです。
計画を立てる上でのCBT的な視点
この計画術を進める上で、CBTのいくつかの視点を持つことが役立ちます。
- 現実的な視点を保つ: 計画は、非現実的な目標や完璧な解決策を目指すものではありません。あくまで「今できること」「現実的に取り組めること」に焦点を当てます。将来の不確実性を完全に排除することは不可能であることを受け入れることも大切です。
- 「思考」と「事実」を区別する: 計画を立てるプロセスで、再びネガティブな予測や思考が浮かぶかもしれません。「どうせうまくいかない」「計画通りに進むはずがない」といった考えです。そのような思考が浮かんだら、「これは単なる思考であり、事実ではない」と区別する練習をしてみましょう。そして、立てた計画という「事実に基づいた行動リスト」に注意を向け直します。
- 小さな成功を認識する: 計画通りに全てが進まなくても、小さな一歩を踏み出せたこと、少しでも不安を具体的にできたことなど、プロセスの中での小さな成功や変化を意識的に認識することがモチベーション維持につながります。
まとめ
漠然とした将来の不安は、形がないゆえに私たちを苦しめることがあります。この記事でご紹介したCBT式の計画術は、不安を具体的に捉え、「解決すべき問題」として対処するための具体的なステップを提供します。
この方法を実践することで、不安を完全に無くすことは難しくても、不安に圧倒されず、自分自身で状況に対して働きかけられるという感覚を育むことができます。最初から完璧な計画を目指す必要はありません。まずは、漠然とした不安を一つ選び、第一歩として書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
継続的に実践することで、漠然とした不安との付き合い方が変わり、より建設的な思考と行動のパターンを身につけていくことができるでしょう。