「自分を過小評価してしまう」ネガティブ思考を変える:CBTで現実的な自己評価を育むステップ
自分を過小評価してしまうネガティブ思考に気づく
日々の生活の中で、「自分には価値がないのではないか」「どうせ自分には無理だ」といった考えに囚われることはありませんでしょうか。特に仕事でミスをしたり、人間関係でうまくいかないと感じたりした時に、自分自身を過小評価してしまう。このようなネガティブな考え方は、気分を落ち込ませ、新しい挑戦への意欲を削いでしまうことがあります。
しかし、こうした「自分を過小評価してしまう」考え方は、必ずしも事実に基づいているわけではありません。認知行動療法(CBT)では、このような考え方を「自動思考」と呼び、これに気づき、より現実的でバランスの取れた考え方を見つけることを目指します。この記事では、自分を過小評価してしまうネガティブ思考を改善し、現実的な自己評価を育むためのCBTの具体的なステップをご紹介します。
なぜ自分を過小評価してしまうのか
自分を過小評価してしまう背景には、過去の経験や育ってきた環境、あるいは特定の出来事によって形成された「考え方のクセ」が影響していることが多いです。CBTではこれを「認知の歪み」と呼ぶことがあります。例えば、たった一度の失敗で「自分は常に失敗ばかりだ」と思い込んでしまう(全か無か思考)、自分の良いところは無視して悪いところにばかり目が向く(心のフィルター)、他人からの褒め言葉を素直に受け取れず「お世辞だろう」と考えてしまう(長所の自己否定や過小評価)などです。
これらの考え方のクセは無意識のうちに働き、自分自身に対する評価を実際よりも低く見積もってしまいます。そして、「どうせ自分はダメだから」というネガティブな自動思考が生まれ、気分が落ち込んだり、行動する前から諦めてしまったりといった悪循環につながります。
CBTで現実的な自己評価を育むステップ
自分を過小評価してしまうネガティブ思考に変化を起こすためには、その考え方に気づき、それがどの程度事実に沿っているのかを検証し、より現実的な視点を見つける練習が有効です。ここでは、CBTに基づいた実践的なステップをご紹介します。
ステップ1:過小評価する考えに気づく(自動思考の特定)
まずは、どのような状況で、どのような時に自分を過小評価する考えが浮かぶのかに気づくことから始めます。考えが浮かんだ状況と、その時に頭に浮かんだ具体的な考えを記録してみましょう。
例えば、以下のような形式で書き出してみると、自分の思考パターンが見えやすくなります。
- 状況: 同僚が上司から褒められているのを見た時
- 頭に浮かんだ考え: 「やっぱり自分はダメだ。あの人みたいに評価されない。」
- その時の気分: 落ち込み 70%、劣等感 60%
このステップでは、考えが良いか悪いか判断せず、ただ「気づき、記録する」ことに焦点を当てます。
ステップ2:その考えを事実として検証する(証拠集め)
次に、ステップ1で書き出した「頭に浮かんだ考え」が、どの程度事実に裏付けられているのかを検証します。その考えを支持する証拠と、それに反する証拠を客観的に集めてみましょう。
先ほどの例「やっぱり自分はダメだ。あの人みたいに評価されない。」を検証してみます。
- 考えを支持する証拠:
- 最近、任されたプロジェクトで小さなミスをした。
- 上司から直接、自分の働きについて褒められたことはあまりない。
- 同期と比べて昇進が遅れている。
- 考えに反する証拠:
- 担当しているクライアントから感謝の言葉をもらったことがある。
- 過去には上司から「よく頑張っているね」と声をかけられたことがある。
- 新しい業務のやり方をすぐに習得できた。
- チームのメンバーから頼りにされたことがある。
- 与えられた仕事を期限内に完了させている。
- 同僚が褒められたのは、その同僚の特定のスキルや貢献に対するものであり、自分の評価とは直接関係がないかもしれない。
このように、感情から離れて客観的に証拠を集めてみると、自分を過小評価する考えが、必ずしも全ての事実に基づいているわけではないことに気づくことができます。良い面やできている点を見落としている可能性があるのです。
ステップ3:より現実的でバランスの取れた考え方を見つける(代わりの考え方)
ステップ2の検証結果を踏まえ、自分を過小評価する考えに代わる、より現実的でバランスの取れた考え方を見つけます。
先ほどの例に基づくと、「やっぱり自分はダメだ。あの人みたいに評価されない。」という考えに対して、以下のような代替案が考えられます。
- 「確かに、最近ミスもあったし、特定の分野ではあの人の方が評価されているかもしれない。しかし、自分にもできていることや貢献できていることがある。全ての面で他人と比べる必要はないし、自分の強みや成長に焦点を当ててみよう。」
- 「評価の形は人それぞれだ。上司からの直接的な褒め言葉は少なくても、クライアントや同僚からの評価もある。評価されていないわけではなく、評価のされ方が違うだけかもしれない。」
- 「完璧な人間はいない。ミスから学び、次に活かすことが大切だ。あの人も完璧ではないだろう。」
このように、過小評価する考え方を否定するのではなく、集めた証拠に基づいて、より多角的で現実的な視点を加えることが重要です。
ステップ4:小さな行動で試す(行動実験)
ステップ3で見つけた現実的な考え方を基に、小さな行動を試してみましょう。例えば、「どうせ自分はダメだから」と避けていたことに対し、小さな一歩を踏み出してみるのです。
- これまでの行動: 「どうせ自分には無理だ」と考え、新しい業務への参加を避けていた。
- 新しい考え方: 「完璧にできなくても大丈夫。まずは学んでみよう。少しずつでも進歩があれば良い。」
- 行動実験: 新しい業務に関する簡単な研修に参加してみる。または、詳しい同僚に質問してみる。
そして、その行動を試した結果や、その時に気づいたこと、感じたことを観察し、記録します。予想外にうまくいったり、新しい発見があったりすることで、過小評価していた自分自身の可能性に気づくことがあります。
実践のポイント
これらのステップを実践する上で大切なのは、完璧を目指さないことです。ネガティブな考え方はすぐに消えるものではありません。大切なのは、そのような考えが浮かんだ時に、「これは事実だろうか?」「他の見方はないだろうか?」と立ち止まって考える練習を続けることです。
焦らず、小さな一歩から始めてみましょう。そして、自分自身の小さな変化や成長にも目を向け、肯定的に捉えることを意識してみてください。
まとめ
自分を過小評価してしまうネガティブ思考は、日々の生活に影響を与えることがあります。しかし、CBTの考え方を取り入れ、自分の思考に気づき、客観的に検証し、より現実的な視点を見つける練習を重ねることで、これらの考え方に変化を起こすことが可能です。
今回ご紹介したステップは、すぐに大きな変化をもたらすものではないかもしれませんが、継続することで自分自身への見方が少しずつ変わっていくことを実感できるはずです。自分自身を過小評価することなく、現実的な自己評価を育むためのツールとして、ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。