特定の状況でなぜネガティブになる?思考・感情・行動のつながりを見つけるCBTワーク
特定の状況でネガティブになる理由を探る:CBTの基本的なワーク
日々の生活の中で、私たちは様々な状況に直面します。ある状況では特に問題なく過ごせるのに、別の状況ではなぜかネガティブな気分になったり、不安を感じたりすることはないでしょうか。例えば、仕事で新しいタスクを任された時、友人と話している時、人前で話す時など、特定の状況で気分が落ち込んだり、イライラしたり、漠然とした不安を感じたりすることがあるかもしれません。
このようなネガティブな感情や気分は、その状況そのものだけではなく、その状況に対して自分がどのように考え、どのように反応しているかと深く結びついています。認知行動療法(CBT)では、この「状況」「思考」「感情」「行動」のつながりを理解することが、ネガティブ思考を改善する上で非常に重要だと考えられています。
このつながりを明らかにするための、CBTの基本的なワークをご紹介します。このワークを通して、あなたが特定の状況でなぜネガティブになるのか、その背後にある考え方や反応のパターンに気づくことができるでしょう。
状況・思考・感情・行動のつながりとは?
CBTでは、私たちの気分(感情)は、出来事(状況)そのものによって直接引き起こされるのではなく、その出来事をどのように捉え、どのように考えているか(思考)によって大きく左右されると考えます。そして、その感情や思考が、その後の行動にも影響を与えます。
簡単な例で考えてみましょう。
- 状況: 街で知人とすれ違ったが、相手が気づかずに通り過ぎていった。
この状況に対して、人によって異なる考え方をする可能性があります。
- 思考A: 「私のことが嫌いなんだな」「避けられた」
- 思考B: 「気づかなかっただけだろう」「何か考え事をしていたのかもしれない」
思考Aのように考えた場合、どのような感情が生まれるでしょうか。
- 感情A: 悲しい、不安、嫌われたと感じる、落ち込み
思考Bのように考えた場合はどうでしょうか。
- 感情B: 特に何も感じない、少し残念だが気にならない
そして、それぞれの感情は、その後の行動にも影響を与えます。
- 行動A: その知人に話しかけるのをためらう、他の人との関わりも避けるようになる
- 行動B: 次回会った時に普通に挨拶する、特に影響を受けない
このように、「状況」は同じでも、「思考」が異なれば「感情」や「行動」も変わってくるのです。私たちが特定の状況でネガティブな感情を抱きやすいのは、その状況でネガティブな思考パターンが自動的に働いている可能性があるからです。
この自動的に浮かんでくる思考を「自動思考」と呼びます。自動思考は、瞬時に頭に浮かび、あまり意識されないことが多いため、自分がその時何を考えていたのか気づきにくいことがあります。しかし、この自動思考こそが、感情や行動、ひいては気分に大きな影響を与えているのです。
ワーク:あなたの「状況・思考・感情・行動」を書き出してみる
このワークでは、あなたがネガティブな気分になる特定の状況を選び、その時の「状況」「思考」「感情」「行動」を一つずつ書き出してみます。これにより、あなたのネガティブなパターンがどのように成り立っているのかを客観的に見ることができます。
ワークの手順
以下の項目を、紙やノート、スマートフォンのメモ機能などに書き出してみてください。
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状況 (Situation): ネガティブな気分になった特定の出来事や状況を具体的に記述します。いつ、どこで、誰といて、何が起こったのか、客観的な事実のみを書くように意識します。
- 例: 「今日の午後、会議で自分のアイデアを発表したが、誰も反応しなかった。」
- 例: 「昨夜、友人にメッセージを送ったが、まだ返信が来ていない。」
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感情 (Emotion): その状況が起こった時、あなたが抱いた感情を単語で記述します。悲しい、不安、イライラ、恥ずかしい、落ち込み、怒りなど、当てはまる感情をいくつか挙げても構いません。感情の強さを100点満点で評価しても良いでしょう。
- 例: 「落ち込み(80点)、恥ずかしい(70点)、不安(50点)」
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思考 (Thought): その状況で、あなたの頭に瞬時に浮かんだ考えやイメージを書き出します。これが自動思考です。言葉になっていなくても、心の中で思ったこと、当然だと感じたことなど、できるだけ正直に記述します。「〜べきだ」「〜に違いない」といった形で浮かぶこともよくあります。
- 例: 「私のアイデアはつまらないものだったに違いない」「私は能力がない」「会議で発言するべきではなかった」
- 例: 「友人は私のメッセージを無視している」「何か悪いことをしたのかもしれない」「嫌われたらどうしよう」
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行動 (Behavior): その思考や感情を感じている時に、あなたが実際にとった行動を具体的に記述します。何も行動しなかった場合も、「何も話さなかった」「部屋に閉じこもった」など、具体的な状態を記述します。
- 例: 「会議の後、すぐに席を立ち、誰とも話さなかった。」「次の会議では発言しないでおこうと思った。」
- 例: 「スマートフォンの通知を何度も確認した。」「他の友人にも連絡してみた。」
書き出しのポイント
- 具体的に: 状況、思考、感情、行動はできるだけ具体的に記述します。漠然とした表現は避けます。
- 客観的に: 特に状況は、解釈や評価を交えずに客観的な事実のみを書くことを意識します。
- 瞬時に: 思考は、その状況で最初に頭に浮かんだ自動思考を捉えようとします。後から考えた「こう考えればよかった」という思考とは区別します。
- 正直に: どんな思考や感情が浮かんだとしても、それを否定せず、ありのままを書き出します。これはあくまで自己理解のためのワークです。
ワークを通して何が見えてくるか
このワークを通して、特定の状況と、それに対するあなたの「思考」「感情」「行動」がどのように連鎖しているのかを「見える化」することができます。
書き出した内容を眺めてみてください。あなたは特定の状況で、いつも似たような思考パターンを持っていることに気づくかもしれません。その思考が、いつも同じようなネガティブな感情や、消極的な行動につながっている様子が見えてくるかもしれません。
例えば、「人前で何かをする時は、常に『失敗する』という思考が浮かび、その結果『不安』を感じて『消極的な行動をとる』」といったパターンが見えてくることがあります。
このワークは、あなたのネガティブ思考パターンを特定するための第一歩です。このパターンに気づくことができれば、次のステップとして、その思考が現実的かどうかを検証したり、よりバランスの取れた考え方を見つけたりするCBTのテクニックに進むことができるようになります。
まとめ
特定の状況でネガティブな気分になるのは、その状況で自動的に働く思考パターンがあるためかもしれません。今回ご紹介した「状況・思考・感情・行動」のつながりを書き出すワークは、そのパターンに気づき、自己理解を深めるための基本的なCBTワークです。
このワークは、一度きりではなく、ネガティブな気分になった時に定期的に行ってみることをお勧めします。様々な状況でワークを繰り返すうちに、あなた自身の考え方のクセやパターンがより明確に見えてくるでしょう。
ネガティブ思考を改善する道のりは一歩ずつですが、このワークは確かにその最初の一歩となります。ぜひ、気軽に試してみてください。そして、書き出した内容から見えてきたあなたのパターンについて、今後の記事でご紹介する他のCBTテクニックと合わせて考えていくことができるでしょう。
免責事項: 本記事は認知行動療法の考え方に基づいた一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。深刻な悩みや困難を抱えている場合は、専門家にご相談ください。